地球上にある電波望遠鏡を超長基線電波干渉法を用いて結び、銀河の中心にある巨大ブラックホールの姿を捉えるプロジェクト「イベントホライズンテレスコープ(EHT)」は、2017年に乙女座の方向5500万光年先にある巨大楕円銀河「M87」の中心ブラックホールを観測し、2019年4月にその成果を発表した事で話題になりました。EHTはこの時の観測データを現在も解析し続けているそうです。
今回発表されたのはブラックホール周辺を取り巻く光(電磁波)が偏光している事を突き止めたと言うものです。
光(電磁波)は、電場と磁場の振動が横波として伝わる現象ですが、自然光のような普通の電磁波には様々な方向に振動する波が混ざりあった状態で伝わります。こうした自然光とは違い、水面を反射した光や物質を通過した光などは、特定の振動面を持つ光だけを含んだ状態です。このような振動面が揃った電磁波を「偏光」と呼びます。宇宙で偏光が観測される要因は磁場にあるようです。
EHTが撮影したブラックホール周辺の光は、磁力線に捕らえられた荷電粒子が高速で運動するときに出る「シンクロトロン放射」という光ではないかと言います。シンクロトロン放射は、磁力線に巻き付く粒子の軌道面に平行な向きに偏光する性質があります。研究チームでは、M87のブラックホール画像に記録されている偏光の向きをモデル計算と比較した結果、ドーナツのように取り巻く磁場の分布(ポロイダル磁場)が存在するのかもしれないと考えているそうです。今回の結果は、ブラックホールのすぐそばに強く整列した磁場が存在することを直接示した世界初の証拠だそうです。なおブラックホールの周辺で偏光の様子を可視化した画像が作成されたのも世界初となります。
また、M87の中心ブラックホールからはなんと5000光年にも及ぶジェットが吹き出しています。この吹き出すジェットの形成過程には周辺にある磁場が影響していると考えられます。ブラックホールから噴き出すジェットの形成過程については、まだ多くの謎が残されていますが、研究チームでは、今回の研究成果から、このようなブラックホールのジェットの形成過程に関する謎を解き明かす鍵になるのではないかと期待しています。
http://www.astroarts.co.jp/article/hl/a/11921_m87
Wrote: 寺地